ファクタリングに適した業種
業種を問わずすべての会社にとって、資金繰りは自社の存続のためにもっとも大事な課題となります。
中小、零細企業にとってはよりシビアな状況になるケースも多く見られます。
ファクタリングは企業の資金繰り対策としては間違いなく有効な方法の1つではありますが、手数料を差し引かれることを考えれば、利用しないに越したことはありません。
しかし、現実としてそれができる会社ばかりではありません。
特にいまから挙げる業種については、支払いから入金までのサイクルが基本的に長かったり、その金額が大きくなる場合もあることから、どうしてもその間の運転資金が苦しくなる傾向にあります。
そういった業種においては手数料のデメリットを考慮しても、ファクタリングを利用することが最終的に大きなメリットにつながる場合が多いです。
ここでは、業種別にファクタリングが利用されるケースと適している理由を検証していきます。
自社の業種や状況に当てはめて、ファクタリングの利用がベストな選択かを検討していただきたいと思います。
建設業
建設業はファクタリング利用者層の約40%を占めていて、ここでの需要から国内のファクタリングが広まったといっても過言ではないほど、一番関わりが深い業種です。
マンションや商業施設などの大きな建設現場など、公共事業関連や大手ゼネコンの手掛ける案件は、大半が完成後の入金になります。
クライアントから直接仕事を請ける場合は、材料の仕入れ費用くらいは事前に確保できても、人件費や外注費、重機のリース代金などまで立て替えるとなるとかなり苦しくなります。
大手ゼネコンが元請業者となり、外注先に仕事を振り分ける場合は100%後払いになることも珍しくなく、基本的に運転資金が枯渇しがちです。
一般企業のように月末締め翌月末払いのスパンで毎月入金があれば、資金が回転して運営コストを確保できますが、建設業はひとつの現場にかなり時間を要することもあります。
手形取引の需要が高かった
建設業は売掛入金のスパンが長いことから、従来は手形取引を活用することが多かった業界でもあります。
資金繰りに困った時は手形割引や買取業者などへの裏書譲渡で資金調達できるのも、手形の普及した要因です。
昨今はアナログ方式の古い手形取引は減り、国は電子債権(でんさい)への切り替えを推奨しています。
しかしながら、これはいまだに普及しているとは言えません。
電債は手形より便利で安全な一方、下請会社も電債用の専用口座を開設しないといけないなど、利用するまでのハードルが高めなところがネックとなります。
このような背景から、資金繰りが苦しくなった際にはファクタリングで対応する会社が増えていきました。
ちなみに、建設業界では圧倒的に3社間ファクタリングの利用比率が高いです。
償還請求権なしによる保全効果
ファクタリングは基本的に、償還請求権なしの「ノンリコース」契約になっています。
手形や電債に比べたメリットとして、万一売掛先が破綻したり支払い遅延を起こしたとしても、ファクタリングの利用者に弁済義務が発生することはありません。
上場している大手ゼネコンが直接の元請の場合は、受注前から財務状況が悪くない限り、簡単に破綻することはありません。
ただし元請の信頼性が高いと言えるのは、ごく一部の上場企業に限定されていて、2次、3次の下請業務が発生する建設業では、そこそこの規模の元請会社が破綻したり、支払遅延を起こすことも珍しいことではありません。
破綻とまではいかずとも、工期の遅れで売掛金の大幅な支払い遅延を起こすこともあります。
ファクタリングの手数料は決して安くありませんが、ノンリコース契約という安心感を考えれば、手数料に見合う価値はあると言えます。
建設業界は扱う金額が大きく、大手との取引でも支払いを巡るトラブルリスクが高いからこそ、償還請求権なしで保全効果も得られるファクタリングが広く浸透していったのでしょう。
受注決断までのスピードが重要
下請業務を行う建設業者には、突発的に仕事の依頼が来ることも珍しくありません。
突発的な仕事の相談をされた時に、資金繰りの問題で受注を躊躇ってしまえば他社に仕事を取られてしまいます。
結果的にファクタリングで利益を削ったとしても、元請会社との信頼関係が深くなれば、その先に良い案件をたくさんもらえるメリットもあります。
複数の現場を抱えている場合は、請求書発行済みの売掛債権を2社間ファクタリングで売却し、受注した仕事の運営コストに回すような柔軟な立ち回りも有効になってきます。
2社間ファクタリングであれば最短即日から2~3営業日での資金調達が可能です。
銀行融資やその他の方法で資金調達できる場合でも、スピードを求められる場面では、ファクタリングを選択するメリットがそれを大きく上回ると言えます。
運送業
運送業はドライバーの低賃金が問題視されている業界です。
一部で会社が大きな利益を出していることもあるが、大半は過熱する価格競争の影響で、会社もギリギリの自転車創業をしているケースが多いようです。
昨今はガソリン代の高騰や高速道路料金の値上げも大きな負担になってきています。
運送業界の会社経営においては、人件費、ガソリン代、高速道路料金、トラック(車両)の購入費用や維持費などが非常に大きく圧し掛かってくるのです。
薄利多売を求められる業界にも関わらず、事故や故障で突発的な出費が発生することが多い点も見逃せません。
さらに業務量やドライバーの給料(残業代含む)も季節によって変わってくるので、大きな問題が起こらなくとも運転資金がショートしてしまうケースも珍しくありません。
運送業の主な活用事例
運送業における主なファクタリング活用事例をみていきましょう。
季節による業務量の変動に対応
運送業の繁忙期は年末や年度末、お盆などです。
繁忙期は仕事量が増え、業界全体が忙しくなるため道路渋滞も増えます。
結果的に人件費、ガソリン代、高速代などのコストが膨れ上がります。
安定した受注先を確保していても季節に応じて売上の変動が大きいため、繁忙期の運転コストを調達する目的でファクタリングを活用するケースは多いようです。
事故、故障、突発的な代替
トラックの任意保険は非常に高額であり、車両保険を含めフルカバーで加入している運送会社は、実は多くありません。
毎日長い距離と時間を走るため、故障リスクも高く突発的な出費が起こりやすいのもネックとなります。
運送業においてトラックは必要不可欠な商売道具であり、事故や故障による修理や代替の対応が遅れると、大きな機会損失が発生します。
何かあった時でも、すぐに修理や代替をして稼働できるトラックを確保することができるだけの資金が必要となります。
ベタと高速の使い分け
運送業界では一般道を走ることを「ベタ」と呼びます。
大型トラックは高速道路料金が高く、東京-大阪間の場合、片道で約2万円の料金がかかります。
会社によっては時短で削減できる人件費よりも高速代の方が高くつくため、ベタを優先することもあります。
しかしベタは時間がかかるため、稼働できる範囲が狭くなるというデメリットがあります。
閑散期はベタ、繁忙期は高速と使い分けている運送会社も多く、高速の利用有無で運営コストが大きく変わるため、出費の嵩む時期に合わせてファクタリングを利用してカバーする会社も多いようです。
融資や借入を受けられない中でのトラック購入
10トントラックの箱車の場合、購入費用は1,500~2,000万円かかります。
トラックも燃費が向上しているので、古いトラックを使い続けて高額な修理代とガソリン代の負担を払い続けるくらいなら、新車や程度の良い中古車に代替した方が長期的なコストカットに繋がるでしょう。
そのための資金は、ローンや銀行融資で調達するのが理想ですが、審査に通らない場合はファクタリングも選択肢の一つとなります。
3社間ファクタリングの需要も高い
運送業の提供するサービス内容はどこの会社も大差はありません。
元請会社からすれば、重要なのは安さと決められた納期を守れることです。
また元請会社は下請けに対して、薄利で仕事を請けてもらっているのをある程度理解しているはずです。
こうした背景から、3社間ファクタリングの打診をしやすい業種ではありますが、取引先の価値観や考え方を見極める必要はあります。
実績が豊富なファクタリング会社であれば、取引先が3社間ファクタリングを他社と行っていたかどうかの情報も把握していることがあるので、そのあたりの事前情報を確認することも大事です。
医療業
ファクタリングの手数料は、売掛先の信頼性で決まります。
医療業におけるファクタリングは、取引先にあたるのが国の健康保険組合であるため、貸し倒れや返済遅延が起こるリスクは限りなくゼロに近いです。
診療報酬債権をファクタリングする場合、手数料は1~3%前後が相場となっています。
さすがにファクタリング会社にとってもリスクが低いということで、かなりの低コストで取引できる点が特徴です。
個人開業医の多くは借金まみれ
親の代から受け継いだような、すでに実績のある病院や診療所は別として、病院勤務から独立した個人開業医の多くは、はじめはかなりの額の借金を抱えているものです。
医療機関で扱う設備は非常に高額で、開業するには設備費用だけで数千万円必要になるからです。
開業医であれば、簡単に融資を受けられると思うかもしれませんが、それも無限ではないため、借入が増えれば普通に審査にも落ちます。
そんな時に資金調達の手段として、ファクタリングが選ばれるのです。
医療機器のリースは高額
医療機器のリース代は非常に高額なため、リースよりも投資をして自社の設備として運営した方が利益率は圧倒的に高くなります。
長期的に扱うか分からない設備の場合、始めはリースで設備導入して需要の高さを確認してから購入に切り替えるケースもよく見られます。
コストの高い資金調達を使ってでも採算が合うという判断から、ファクタリングが選ばれることもあります。
開業直後に利用するケース
クリニックを開業する際は、専門のコンサル会社や開業サポート会社を活用するのが一般的です。
そして、開業支援を行う業者はファクタリング会社と提携している場合が多いのです。
クリニックを運営するには看護師をはじめとした人件費や、診察や検査で使う機材に高額のコストがかかります。
月に数百万円から数千万円の支出が発生することもあり、開業資金で融資を受けた個人開業医は、最初の診療報酬が入金されるまでに資金が不足しがちです。
ファクタリングは、そういった初期時の資金繰りを補助する役割として最適です。
アパレル業
アパレル業は小売店、卸会社、製造会社の全てにおいてファクタリングとの相性が良い業界です。
そこには、季節の変わり目にまとめて仕入れを行い、3~4カ月をかけて在庫を売るという業界の特性が大きく関係しています。
流行があること、在庫リスクがあることから、仕入れた物は季節の終盤になったら在庫一斉セールをしてでも売りさばくのが、この業界のセオリーです。
キャッシュレス化で小売店の需要が増加
ファクタリングは売掛債権を買取してもらうことで現金を作る資金調達方法です。
業者と取引をする製造会社や卸会社には多数の売掛債権が存在していますが、小売店の場合は顧客の大半が個人になるため、掛け払いという概念がありません。
そこで、アパレル業でよく活用されるのがクレジットカード債権のファクタリングです。
クレジットカード債権は加盟店が規約違反をしない限り支払いが保証されている安定性の高いものです。
クレジットカード会社は資金力があるので、破綻リスクも極めて少ない売掛先と言えます。
キャッシュレス化によってカード決済する消費者が増加したことで、小売店もファクタリングを活用できる場面が増えてきているのです。
個人事業主
ファクタリングの特徴は、利用者よりも売掛先の信用を重視することにあります。
貸付ではなく将来入金が約束されている売掛債権を買取る仕組みなので、金融機関の借入審査の通らない場合でも利用できる可能性が充分あります。
個人事業主も例外ではなく、売掛先が信頼できる法人であればスピーディーな資金調達が可能です。
個人事業主対応業者は少ない
銀行などの金融機関はその融資対象としてほとんどの場合個人事業主を入れていません。
その点、柔軟審査を売りにしている民間のファクタリング業者は個人事業主にも対応しています。
個人事業主は債権譲渡登記ができない
2社間ファクタリングの場合、利用企業に対して債権譲渡登記をするのが一般的です。
債権譲渡登記とは、その会社が倒産や債務超過状態になった時に備え、売掛債権の譲渡を法的に証明し、他の債権者よりも優先して回収する権利を明確にするために行います。
民間業者を通じて2社間ファクタリングを利用する会社は経営が苦しく、既に複数の借入をしているケースも多いため、債権譲渡登記を求められるのが一般的なのです。
しかし、個人事業主の場合は債権譲渡登記をすること自体ができません。
そのため、個人事業主には未対応、消極的なファクタリング業者が多いのです。
個人事業主の場合は、信用情報から個人名義の借入状況をチェックされます。
そこで他社からの借入が多いと、利用が難しくなることもあります。
借入がある場合でも持ち家や家族がいるなど、事業に失敗しても債務整理をするリスクが少ないと判断されれば柔軟な対応を行っている業者もいます。
個人事業主は他に資金調達できる手段の選択肢が少ないこともあり、ファクタリング自体への需要は高いです。
「個人事業主だから…」と決めつけてはいけない
- 個人事業主だから資金調達はできない
- 個人事業主だから手数料が高くてもしょうがない
- 個人事業主だから掛け目が低くてもしょうがない
「個人事業主だから…」とネガティブな固定概念を持っている人もいますが、決してそのように考える必要はありません。自分と売掛先の状況によっては、手数料や優遇されることさえも充分あるからです。
個人事業主だからと簡単に諦めるのではなく、個人事業主だからこそ複数社を比較し、賢く活用する工夫をするべきです。
あらゆる業種に対応
ファクタリングを利用する主な業種を中心に紹介してきましたが、ここに記載されている以外の業種でも幅広くファクタリングは利用されています。
早急な資金調達が必要な際には、まずは自社にとって最適な解決法がファクタリングなのかどうかを確認するためにも、一度問い合わせを入れてみるとよいでしょう。